ディーゼルエンジン (diesel engine) は、ディーゼル機関(ディーゼルきかん)とも呼ばれ、ドイツの技術者ルドルフ・ディーゼルが発明した内燃機関である。1892年に発明され、1893年2月23日に特許を取得した。
ピストンによって空気を圧縮し、シリンダー内の高温空気に燃料を噴射することで自然着火させるしくみである。
実用的な内燃機関の中ではもっとも熱効率に優れる種類のエンジンであり、また軽油・重油などの一般的燃料の他にも、様々な種類の液体燃料が使用可能である[1]。汎用性が高く、小型高速機関から巨大な船舶用低速機関まで様々なバリエーションが存在する。
エンジン名称は発明者にちなむものであるが、日本語表記では一般に普及した「ディーゼル」のほか、かつては「ヂーゼル」「ジーゼル」とも表記された。日本の自動車整備士国家試験ではジーゼルエンジンと呼称している。
圧縮されて高温になった空気に軽油や重油などのディーゼル燃料を吹き込んだ時に起こる、自己着火(正しくは「発火」)をもとにした膨張でピストンを押し出す超拡散燃焼である。理論サイクルの分類では、低速のものがディーゼルサイクル(等圧サイクル)、高速のものはサバテサイクル(複合サイクル)として取り扱われる。
ディーゼルエンジンは、4サイクル又は4ストロークと呼ばれるものと、2サイクル又は2ストロークと呼ばれるものとに大別される。
- 4サイクル・ディーゼルエンジンの各行程
- 吸入行程: ピストンが下死点まで下がり、空気をシリンダー内に吸い込む
- 圧縮行程: ピストンが上死点まで上がり、空気を圧縮する
- 膨張行程: シリンダー内の高温高圧の空気に燃料が噴射される。燃料が燃焼し膨張したガスがピストンを下死点まで押し下げる
- 排気行程: フライホイールの慣性や、他の気筒での膨張などによりピストンが上死点まで上がり、燃焼したガスをシリンダー外に押し出す
燃料の噴射には高圧ポンプが使用され、燃焼方式の違いで、単室の直接噴射式と副室式(予燃焼室式・渦流室式)に分かれる。
2011年においては、ガソリンエンジンにもディゾットエンジンと呼ばれる[2]直噴式ガソリンエンジンの一種が登場し、またSKY-Gと呼称される圧縮比14の高圧縮ガソリンエンジンがマツダより発表されるなど、ディーゼルエンジンとの区分けが曖昧になりつつある[3]。
過給器においては、電動アシストターボチャージャーや、可変ターボなどの登場が見られる。 吸気バルブの開閉タイミング操作が可変になり、エンジン出力を調整するための、スロットルバルブの必要もなくなった。また、燃料に水を添加するデュエット・バーン・システムなど、燃料のちがいによる区分けも曖昧になっている。
これらの変化により、ディーゼルエンジンは点火装置の不要な内燃機関に本質が変化しつつあるといえる。
ディーゼルエンジンは内燃機関の中でも熱効率に優れ、低精製の燃料でも使用できる。圧縮によって吸気を高温にする必要があり、高い圧縮比(初期シリンダ容積と圧縮時のシリンダ容積の比)が要求される。高い圧縮比は機械的強度を要求し、丈夫な部品は重く嵩ばるだけではなく、コストも架かり、可動部重量による機械的損失も大きくなる。
吸入した空気を圧縮し、その中に燃料を噴射して自己着火(発火)させる圧縮着火方式のため、過給を行なってもガソリンエンジンで問題となるノッキングやデトネーションがディーゼルエンジンでは起こらず、その対策として圧縮比を下げる必要もないため過給とは相性がよく、多くが過給機を備えている[4]。
[編集] 燃焼行程
ガソリンエンジンでは、あらかじめ吸気にガソリンを霧化して混合させ、混合気としてシリンダー内に導入するが、ディーゼルエンジンではシリンダー内の高温高圧になった空気中に液状の燃料が高圧で噴射される。ただし、この燃料噴射によってシリンダー内に生じた微細な油滴が注入直後瞬間的に自発発火する訳ではなく、ミクロな油滴の表面で気化した燃料ガスが空気と混合して燃えやすい状態へと変わった後に、発火することになる。この注入から発火までの時間を「着火遅れ」と呼び、この遅れの間にシリンダー内に広がった燃料ガスが自発発火によって一気に燃焼するため、シリンダー内が急激に高温、高圧となり、騒音と振動の原因となっていた。また、注入された燃料油滴がシリンダー内に広がり切る前に自発発火する� ��とが避けられず、原理的にシリンダー容積を使い切ることが難しい。
1990年代後半から登場した電子制御コモンレール方式の燃料噴射装置では、燃料を超高圧で自由なタイミング、かつ自由な回数噴射できるようになっており、燃費・出力・環境対策に関して最適の燃料噴射が行なえるようになっている。
[編集] 4ストロークと2ストローク
21世紀初めの現代の高速ディーゼルエンジンでは4ストローク機関が主流であり、航空機にまで使われたクルップ・ユンカース式対向ピストンエンジンや、GMのユニフロー掃気ディーゼルエンジンなど、第二次世界大戦以前から出現していた2ストローク機関は一部の例外を除いて姿を消した。一方、極低速回転の大型船舶用は、2ストロークのユニフロー掃気ディーゼルエンジンが主流となっている。
[編集] 燃料噴射ポンプとインジェクター
詳細は「噴射ポンプ」を参照
従来型の燃料噴射装置は燃料の「加圧」と「制御」の両方を燃料ポンプで行う。このようなポンプを「ジャーク式」といい、燃料噴射量・タイミングなどがすでに制御された状態で加圧を行うものである。この形式では、噴射ポンプの他に噴射量を制御するガバナーや、噴射タイミングを制御するタイマーが組み合わされ、これらはポンプの加圧能力と並んでエンジンの性能を決定する要素となっている。
制御の機構は遠心力や負圧を利用した機械制御が中心で、一部電子制御が採り入れられているものもあるが、大きな力のかかる加圧動作が求められる為に微細な制御には限界がある。
[編集] 概要
かつてのディーゼルエンジンでは、1本の駆動用カムで一列に並んだ各シリンダー向けポンプが駆動される列型噴射ポンプ(Inline Injection Pump)と呼ばれる、直列エンジンに似た形状の噴射ポンプが用いられた。駆動用カムで動作するポンプ内のピストンは常に一定量のストロークで動いているが、実際にはスロットルバルブと連動して噴射ポンプのガバナーが動作し、ピストン外周に刻まれた螺旋状の溝を用いてラック機構によりピストンを上下させ、ピストンストロークを可変させる事で噴射量をコントロールしている。このピストンストローク量の変化は全気筒一斉に行われる為、スロットルバルブの開け閉めの頻度と回転数によっては若干の噴射量のミスマッチが発生し黒煙の発生や出力のロスが起こりやすくなる。
列型噴射ポンプは一種のメータリングポンプであり、機構が単純でありながらある程度までの大きさのディーゼルエンジンに対応できる為、トラックや建設機械、鉄道、産業用エンジン、小型船舶、農業機械などで未だに用いられている。
その後登場した形式としては、比較的小型の乗用車や小型トラック向けに開発された分配型噴射ポンプ(Distributor Injection Pump)が挙げられる。この形式は別名ロータリーポンプ(Rotary Pump)とも呼ばれ、一組のカム・ピストンのみを用い、ロータリーバルブで各気筒への燃料の分配を行うものである。ロータリーバルブ上に各気筒への分配パイプが密集して並ぶ為、その外見はガソリンエンジンのディストリビューターに良く似たものとなっている。 分配型噴射ポンプはボッシュVE型等が有名であり、スロットル開度に応じて分配弁の開弁量を可変させる事で列型噴射ポンプと比較して低回転から高回転までスムーズな燃料噴射量の調整が行える。いくつかの分配型噴射ポンプはターボチャージャーやスーパーチャージャーなどの過給機に対応する為の燃料増量機構を別途備えている場合もある。
分配型噴射ポンプは列型噴射ポンプと比較して絶対的な噴射許容量では劣るものの、きめ細かな制御が行え、且つ部品点数も大幅に減らせる為にディーゼルエンジンの小型化と低排気量化に大きく貢献した形式といえる。しかし、列型噴射ポンプと異なりポンプ内部の潤滑を軽油の硫黄成分にのみ頼る構造の為、近年の脱硫化の進んだ軽油やいわゆる不正軽油などを用いると故障を起こしやすくなる。但し、近年の軽油は硫黄に代わる潤滑成分が添加されている他、必要に応じて潤滑添加剤などをガソリンスタンドで別途補給する事も可能な為、正規の軽油で運用する限りはそれほど問題は生じない。
[編集] 近年の動向
近年ではディーゼルエンジンに対する排ガス規制や燃費規制が年々強化される傾向にある為、エンジンの駆動力の損失を引き起こす機械式噴射ポンプは徐々に廃れつつある。 代わって、コモンレール(金属製の頑丈なパイプ(レール)に高圧燃料を蓄えて、電子制御の噴射を行う)式やユニットインジェクター式噴射ポンプなどが、燃料噴射を、完全に電子制御化する為に用いられている。このようなシステムを用いる事で、ディーゼルエンジンでも非常に高度な燃焼制御が可能となり、高出力且つクリーンなエンジンを実現する事が出来る。
[編集] ガソリンエンジンとの比較
以下の長所と短所はエンジンとそれを搭載する乗り物が大型であるほど長所が目立ち短所が目立たなくなる傾向がある。逆に小型軽量の乗り物であるほど短所が目立ちガソリンエンジンが有利になる。このため、小型車はガソリンで大型車はディーゼルになることが多く、船舶や鉄道など大型機関を搭載した大量長距離輸送手段はディーゼルの独擅場になっている。
[編集] 長所
[編集] 燃費・効率面
空気過剰率が大きいため、作動ガスの比熱比が高く図示熱効率が高い(投入したエネルギーに対して燃焼ガスの温度上昇に使われる割合が高い)
部分負荷時の燃料消費率が低く、同じ仕事に対する二酸化炭素の排出量が少ない。端的には燃費が良くなる。これがヨーロッパでのディーゼルシフトの最大の要因であり、世界初となった燃費100km/3リットルの自動車の実用化もディーゼルエンジンなしでは困難であったと思われる。
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